呼ばれた床屋

少し前の夕方のことだ。僕はベランダから外を見ていた。夕焼け色が空をぼんやりとぼかしはじめ、全てが金色に染まっていくようだった。ほんの少し前まで白く澄みきっていた午後は、暦の上ではすでに夏の空によっておだやかな色彩を都会の喧噪の上にこぼし始めていた。ちょうどやわらかな鐘の音が近所の小学生に帰宅の時間を知らせており、それに反応した子供達のにぎやかな声も夕べを急ぐ鳥のように静まりかえっていく。それぞれの帰路についた子供達は仲間とのわずかばかりの別れを、葬式の参列者のように惜しんでいた。

勝手に小学生を見送った僕は網戸をひゅるりと締め、乞食でももっとマシなもん着てるだろってくらいにデロンデロンになったユニクロのスウェットをフル装備して一人遊びに興じることにした。その遊びの内容はこうだ。

1、低俗な書店に行く。女の子がたくさん載ってるファッション雑誌を、周囲の視線とか一切省みずに、えびす顔でチョイスする。

2、冷たいコーラを用意してランダムにページを開く。

3、耳がちぎれるほどの声量で魔法の呪文「いっせーのせ!」を唱え、同時に血眼になって好みの女の子を力強く指差す。この際どれほど腕に血管が浮き出ているかも審査の対象である。

というものだ。最近はこの非常にナウいゲームを山積みにされたキャンキャンやジェイジェイに埋もれながら毎日8時間ほどやっている(1人で)。自分が天才だということはわかってはいたが、我ながらこれは信じられないほど面白い遊びを考えてしまったと思っている(現在特許申請中)。